産経に栗山公判の記事

本日、MSN産経が10月5日の栗山龍公判に関する記事を掲載した。一読、複雑な思いにとらわれた。

大手マスコミが取り上げるのが遅すぎた

バッキーの犯罪については2004年12月に栗山を含む8名の逮捕がテレビなどで報じられたが、この時の傷害容疑(同年6月の直腸損傷事件)は証拠不十分で誰も起訴されなかった。
そして翌2005年3月にあらためて別の撮影に関する容疑で逮捕状が出て、ここからバッキー事件裁判(11名が起訴され現在9名有罪確定、2名公判中)が始まるのだが、捜査当局が最初の逮捕で起訴できなかったことで慎重になったのか、大手マスコミは2005年3月の逮捕を一切報じなかった。以後、最初の判決(6月)、主犯濱田太平洋の逃亡・逮捕(7月)、主犯栗山の逮捕・起訴(2006年2月)、矢野に懲役20年求刑(2006年7月)*1などいくつかの節目があったが、大手マスコミは報じずじまい。
大手マスコミが取り上げ世論の後押しがあれば、未解決の問題(強姦の実行犯である汁男優が誰一人起訴されていないこと、犯罪ビデオがいまだに販売されていること*2)もなんとかなっていたかもしれない。残念である。

なお、大手紙・テレビは取り上げなかったが雑誌メディアは何度か記事にしている。ただし中にはひどいものもあった。『創』が2005年5月から2006年8月まで「関係者手記」を連載したが、主犯濱田の子飼いライターだった岩崎悟(猫屋陽平)*3が変名で容疑者擁護や自己弁護を展開、刑事から聞いた話と称して被害者のプライバシーを暴露、ネットに掲載された傍聴レポートを盗用するなど、とんでもない記事の連続であった。
(バッキー事件全体の推移はバッキー事件時系列表がまとめている。)

簡潔すぎる

内容にも不満がある。MSN産経の記事は「10月5日の公判を傍聴してわかる範囲のこと」しか書いてない。見出しに【法廷から】とあるので元々そういう趣旨の記事なのだろうが、どうにも歯がゆい。
見出しも疑問だ。バッキーがやっていたのは「ひどすぎるAV撮影」というより、「犯罪行為を撮影してAVと称して売っていた」というほうが実態に近い。

上で書いたことと重複するが、今からでもいい、以下の点をきっちり押さえた報道に期待したい。

  • 栗山を筆頭に11名が起訴され、すでに9名の有罪判決が確定している。もっとも重い者で懲役15年。
  • 加害者の人数と刑の重さからうかがわれるように、これは会社ぐるみで常習的に行なわれていた凶悪犯罪である。
  • 強姦致傷事件なのに、強姦の実行犯(「監禁友の会」メンバー)多数が起訴されず、野放しになっている。
  • スタッフが逮捕され有罪判決が出ても、会長の栗山が逮捕・起訴されても、有罪判決が確定しても、犯罪ビデオは販売され続けている(バッキーは2005年3月に「会社を解散する」と公式サイトで虚偽の告知をし、社名をコレクターに変え役員を入れ替えただけで販売を続行)。
  • AV業界は再発防止策を講じていない。被害者救済もなされていない。


いろいろと不満を書いたが、MSN産経の記事が貴重な報道であることは間違いない。以下に引用する。


2007.10.6 11:25
 強姦。この言葉を聞いて嫌な気分になる人は多いだろう。現実はその言葉以上に醜い。

 5日、強姦致傷罪に問われた栗山龍被告(43)の論告求刑公判が東京地裁で開かれた。

 論告によると、栗山被告は、アダルトビデオ制作会社の経営者として、平成15年12月〜翌年9月にかけて、4人のAV女優に対し、「軽いレイプものを撮るんでね」と、うそをつき、集団で暴行を加えるなどして撮影。4人に全治6〜2週間のけがや精神的な障害を負わせた。被告は、撮影したこれらのビデオをシリーズで販売、多額の利益を得ていた。

 論告で耳に入ってくる言葉の多くは、「女優は売春婦なんだから何してもいいんだよ」という被告の供述に裏付けられた、女性の人格を無視した行為の実態だった。1人の女優に対して20人から30人の男優が長時間にわたって暴行し続けたり、女性の手足を縛って身体の自由を奪った後、水中に何度も顔を沈めたり、大量の酒を無理やり口に流し込んだり…。女優が演技ではなく、本当に苦しみ嫌がる姿を映像にすることで、売り上げを伸ばしていた。

 撮影前の打ち合わせ内容とは異なる過激な撮影に、被害女性は「お願い、もうやめて」「ごめんなさい、家に帰りたい」と懇願したが、撮影は続行された。法廷で朗読された被害者の供述調書では、女性らは「本当に殺されるかと思った」「今でもお風呂につかることができない」とその恐怖を語った。

 この日、検察官は「被告は首謀者であるにもかかわらず反省の態度が見られないばかりか、経済的利益の追求や売名効果をももくろむという犯行動機は、自己中心的で身勝手。到底、酌量の余地はない」として、懲役20年を求刑した。が、被告は薄ら笑いを浮かべていた。検察官の言うように反省の態度は見られなかった。

 強姦致死傷罪は、約1年半後に迫った裁判員制度の対象事件になっている。女性の心までをも傷つけるこうした卑劣な犯罪に目を背けず、心してかかりたいものだ。次回弁論は10月22日。

   (西尾美穂子)

*1:懲役20年というのは改正前刑法の有期刑の上限である。この重い求刑からもバッキー事件の凶悪性がわかる。

*2:11名中9名の有罪が確定した現在も、まだ販売続行している。

*3:岩崎悟は濱田太平洋が立ち上げた編集プロダクション Abcdays のメンバーで、栗山龍の提灯記事を雑誌連載していた。またバッキービデオの編集マンでもあり、スカトロビデオのカメラマンも務めていた。2005年から2006年にかけて2ちゃんねるでバッキー批判派を罵倒する書き込みを続けていたことでも知られている。詳しくはバッキー事件人物表参照。